第4回~疫学の研究手法について~ その4

コホート研究

以下は「コホート研究」に関する説明である。正しい組み合わせはどれか。

a. 発生頻度の低い疾病を対象にする際には、少数のサンプルでの評価が可能である。
b. 過去の出来事を調べるため、後ろ向き研究とも言われ、調査期間は短くて済む。
c. 分析疫学のうち、最も正確に因果関係を評価することができる。
d. 結果を評価する際の指標として、相対リスクを用いる。
e. 調査サンプル数は調査開始時点で確定させておく必要がある。

1.aとc  2.bとd  3. cとd  4.aとdとe  5.該当なし

答えと解説

【答え】 3.
a. 一般的には多くのサンプル数が必要。
b. コホート研究は前向き研究の一つ。そのため、比較的時間を要する手法である。
c. 正しい。
d. 正しい。
e. 必ずしも確定している必要はない。ただし、途中からサンプルを増やす場合には、結果の分析の際に調整が必要になることに注意が必要である。

【解 説】
 コホート研究とは、ある要因に曝露された群と曝露されていない群を一定期間追跡し、両群における疾病の発生や死亡状況を比較することにより、因果関係を評価するための分析疫学の手法の一つである。調査する側が興味のある要因をあらかじめ設定してから追跡をしていくため、分析疫学の手法の中では最も因果関係を正確に評価することが可能である。その際に用いる指標として相対リスク(リスク比)、寄与リスクなどがある。

 コホート研究にはいくつかの種類がある。最も基本的なものは前向きコホート研究(あるいは同時コホート研究。単に「コホート研究」と言った場合にはこれを指す。)であり、要因曝露群と要因非曝露群を、現在から未来に向けて追跡していくものである。これに対して、過去の要因への曝露の有無がわかっている場合、その時点から現在に向かって調査する研究を後ろ向きコホート研究(既往コホート研究、回顧的コホート研究)と呼ぶ。さらに、後ろ向きコホート研究で十分なサンプル数が得られていない場合には、新たにサンプルを追加して観察を継続することもでき、これを継続コホート研究と呼ぶ。したがってコホート研究においては、必ずしも研究開始時点でサンプル数が確定している必要はない。

いずれのコホート研究も現在から未来へ(前向きコホート研究)、あるいは過去から現在へ(後ろ向きコホート研究)、過去から現在を経て未来へ(継続コホート研究)と、時間軸に沿って追跡していくため、研究手法の分類としては「前向き研究」に分類される(これに対し、症例対照研究は、症例と対照それぞれの過去の状況を振り返りながら情報収集を行うので、「後ろ向き研究」に分類される。

いずれのコホート研究においても、まれな疾病では観察期間中に必ずしも発生しないこともあるため、一般的には多くのサンプル数を必要とする。また、前向きコホート研究のでは、観察期間中に脱落(ドロップアウト)が起こることを考慮し、十分なサンプル数を確保しておくことが重要である。このため、他の分析疫学の手法に比較して、コホート研究にはより多くの時間と経費が必要となる。

なお、コホート研究のより詳細な説明や実例については、獣医疫学会編「獣医疫学-基礎から応用まで-」(近代出版、ISBN4-87402-108-5)の99~104頁を参照されたい。

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