第6回~疫学の研究手法について~ その6
生態学的研究
以下は「生態学的研究」に関する説明である。正しい組み合わせはどれか。
a. 集団の特性を把握するため、各集団内の個体を詳細に観察する。
b. 既存の情報を活用することができる。
c. 生態学的研究から得られる結果は、すべての個体の状況を正しく反映したものとなる。
d. 一般的に他の疫学研究と比較して費用と時間が少なくて済む。
e. 研究の手法としては前向き研究に分類される。
1.aとc 2.bとd 3. cとd 4.aとd 5.該当なし
答えと解説
【答え】 2.
a. 生態学的研究の目標としては、あくまで集団ごとの代表値を用いた概要の把握である。
b. 正しい。
c. 生態学的錯誤により、集団レベルの評価結果が個体レベルには当てはまらないことがある。
d. 正しい
e. 前向き研究に分類される疫学研究はコホート研究である。
【解 説】
生態学的研究は集団レベルでの問題や疾病発生とリスク因子との関連を観察する研究手法である。したがって、個体の詳細な観察よりは、統計情報などの集団ごとの代表値を用いての評価を行なうことが多い。その際、サーベイランスデータや既存資料の活用など、しばしば過去に取られた情報が活用される。そのため、費用や時間を比較的かけずに実施できる疫学研究といえる。ただし、生態学的研究から得られる結果は、必ずしも個体レベルの真実を反映しているものではなく、これを生態学的錯誤と呼んでいる。有名な例として、ある工業地帯とあるリゾート地における肺気腫による死亡率の比較研究がある。ここで得られた「肺気腫による死亡率の比較に関してはリゾート地の方が高かった」、という事実のみで、「大気汚染の低い地域はより肺気腫による死亡リスクが高い」という結論を出すべきではない。なぜなら、住民のバックグラウンドを詳細に調査すると、このリゾート地には工業地域での仕事を退職した移住者が多く、彼らがこの地域の肺気腫による平均死亡率を引き上げており、長年そのリゾート地に住んでいた人のみの肺気腫による死亡率は非常に低かったからである。いずれの疫学研究についても言えることであるが、それぞれの長所と短所を十分考慮して用いることが重要である。
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